Buyer’s Report #01『まつもと古市を訪れてみるとする。〜自分の価値観と向き合う時間〜』by L PACK

今回、新たな試みとして不定期にゲストバイヤーをお招きし、『古市お買い物券5,000円分』を元手に自由に買い物してもらい、その様子をレポートしてもらう『Buyer’s Report』なるものを始めてみました。

古市ゲストバイヤーとなる条件は以下の通り。

  1. 古いものを愛する心を持っている人。
  2. 独自の価値観や審美眼によってものを選ぶ目を持っている人。
  3. なにかしらユニークな活動をしていて『まつもと古市』を広めてくれる発信力のある人。

そして、栄えある第一回のゲストバイヤーに選ばれたのが、松本では『工芸の五月』でおなじみのアートユニット『 L PACK 』のお二人。以下、LPACKによるレポートです。彼らの目に『まつもと古市』はどう写ったのでしょうか?

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まつもと古市を訪れてみるとする。
〜自分の価値観と向き合う時間〜

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僕たちLPACK〔*1〕が工芸の五月で松本へ通うようになって早7年。いや、リサーチから入れたら8年になるか。

かれこれ数年の付き合いになる古道具燕の店主である北谷さんが古道具市を始めたというので、初めて展示以外の目的で松本にきてみました。

朝10時。カンカンに晴れた会場の桝形跡広場は早くも賑わい始めています。

最近発売されたBRUTUS 799号の特集が『尊敬できる「骨董品」。』であるように、なにやら近頃民藝や骨董がまたブームになってきているのもこの賑わいの要因なのでしょうか。そのBRUTUSの記事の中で〈Swimsuit Department〉の郷古隆洋さん〔*2〕が、骨董市との向き合い方のを話していて、「店を見るときは、道の左右を見ることはしない〜できるだけ集中するため」と言っていたのを思いだし、このような催しに来るのが久しぶりだった僕たちは、ひとまず一軒一軒順に店舗を周っていくことにしました。

最初に訪れた店舗から新鮮な驚きが。まず店舗というか全然店舗になっていない。
〈売ってやるぞ〉というギラギラした欲望が全く感じられない。
話を聞くと、「処分しようと思っていた安曇野の実家のものを持ってきた」言っていました。

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裁縫が得意だったおばあちゃんの遺品が多く、おばあちゃんが自作した編み物のサンプルブックは一目ぼれしてすぐさま購入。展示棚として使っていた箪笥の取っ手は銀でできていて状態も良いのに格安の1,000円!車で来ていたら即買いしてたくらい良くて悔やまれます。

普段は家具職人をしているこのような人たちの出店を積極的に勧めている主催者の北谷さんの思い、『古道具』に対して持っている尊敬や愛おしさ、処分されてしまう前になんとか救い出すために古道具屋そして古道具市を開催する意味が早くも十分に伝わってきます。

続いて隣の店舗へ。

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普段は下諏訪で散髪屋を営みながら、19歳から現在まで13年間蒐集したコレクションを広げている僕たちと同年代の坊主でメガネ姿の男性がちょこんと座っていて、なんとなくシンパシーを感じます。一緒に来ていた小田桐の息子は、一番手前に並べられた赤、青、黄、緑の車を見て大喜び。別の5歳くらいの子供もそのコレクションに見入っていました。店主との会話途中、蒐集のプロフェッショナルでもあるだろう木工デザイナーの三谷龍二さんが訪れ、木製の泳ぐ人型のようなものを連れて帰っていきました。

僕たちはここで、高台がついた茶碗の底のかけらと不思議な素材の染付仏、そして息子のお気に入りの車を4つ購入しました。

lpack04その隣の店舗では、木工作家の柏木桂さんがこれまたどうにもこうにも味のある魅力的なコレクションを広げています。さすがブリコルール〔*3〕を自称するだけあって道具の枠にとらわれないものまでもがセンス良く並べられています。

「使うものしか買わない」という柏木さんは、高校生の時に蚤の市で手に入れた古伊万里を今もまだ使っていると言っていたのが印象的でした。柏木さんとの会話は尖った刃物のように切れ味がとてもよくて、クロード・ヴィアラ〔*4〕などのアーティストの名前も登場し、またしても会話の花が咲いてしまいました。

ここでは、フランスの子供達が遊んだという羊の軟骨のおはじきのようなおもちゃを購入しました。一見してはなんだかよくわからないものの背景を店主から聞き納得して自分のコレクションに迎え入れる。これが古道具市の醍醐味です。

ここまで3店舗周って100%の購入率。これはやばいなと早くも思い始めてきました。

その後、別の店舗でコーヒーの焙煎用にと探していた竹ざるを2つと、何に使われたのかさっぱりわからない木彫、郷土玩具の小さな白鳥を購入しました。どこも興味深い店主ばかりで、2時間ほどかかって13店舗全てを周りきりました。

全体的に置いてあるものはいいものがたくさん。どうしようもないガラクタや胡散臭いものは全然なかったように思います。これも長野県の文化レベルの高さからなのでしょうか。

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まつもと古市を振り返ってみると、古道具市で僕たちが心を動かされた条件が見えてきました。

  • 商品として以上に、自らのコレクションの一部として愛情を持ってものを扱っている
  • 商品をお客に掘り出させるようなディスプレイをしている

羊の軟骨のおもちゃのように店主から由来を教えてもらえると、何かわからなかったものはより魅力を増す場合が多いと思います。

掘り出せる要素、例えば重なっていて下の方に何があるかわからないとか、箱の中にいろいろなものが一緒くたに入っているとか、棚の間に挟まっているとか。そういう状態のディスプレイをしている店舗は(古道具市においては)とても魅力的に感じられます。

ただこれはあくまで僕たちの基準なので、きちんとテントを張り、きれいにディスプレイしている店舗「らしい」店舗の方が人だかりは常にできています。その点でもこの「まつもと古市」は誰が来ても楽しめるようにうまくデザインされているように思えました。

今回購入したものの他にもたくさんの気になる商品があったので、ぜひまた訪れてみたいです。

購入したものたち

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上から時計回りに。
1:編み物サンプルブック ¥100 × 2
2:竹かごA.B ¥1,000 × 2
3:羊の軟骨の玩具5個セット ¥1,000
4:4色の車 ¥100 × 4
5:染付仏 ¥500
6:白鳥の郷土玩具 ¥300
7:高台付陶片 ¥1,000
8:木彫 ¥0(竹かご購入でサービスしてもらいました)
計 ¥5,400也

迷ったものたち

◆ 迷ったものその1
徳利に鶴の絵。下線と色が段々ズレてきて、鶴の頭の赤い部分が全然関係ないところに押してあったりするところが面白い。

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◆ 迷ったものその2
そろそろ土器が欲しいなあと思ってきたところに山積みの土器を発見。選んだこの2つ、想像以上に値が張って断念。

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◆ 迷ったものその3
折りたたみの椅子。座面がパンチングでかっこ良かった。イギリスのアンティークみたい。

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◆ 迷ったものその4
漆の菓子椀。ツバメかと思ったらカラスのところがいい。お店の方も昔そこが気にいって購入したみたい。
菓子椀っていうの初めて知りました。

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おまけ

一通り回ってふと足元を見ると、拳に収まるくらいのつるんとした小石が落ちているのに気付きました。
それを拾い上げ、これもマイコレクションに入れることにしました。
購入した他のものと一緒に、この石も部屋の一角に並んでいます。

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                                           L PACK 2015.5.22

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〔*1〕L PACK:小田桐奨と中嶋哲矢による現代美術ユニット/コーヒー屋。バックパックに詰めたカフェを様々な場所で開封し、「コーヒーのある風景」をつくりだす。2007年より活動スタートし、松本では「池上喫水社」(2009-2011)、「現在民藝館」(2012-2015)を工芸の五月で発表。埼玉ではアトリエ兼セカンドハウス「きたもとアトリエハウス」(2012-)をつくる。近年は各地の国際芸術祭でのプロジェクトも展開。焙煎したコーヒーはホームページから購入できます。URL:http://lpack.theshop.jp

〔*2〕郷古隆洋さん:1972年東京都生まれ。ランドスケーププロダクツなどを経て、2010年に世界各国から集められたデザイン商品の輸入、卸売をする〈スイムスーツ・デパートメント〉を設立。予約制のショップ〈BATHHOUSE〉も運営。【BRUTUS 799号.P035より】

〔*3〕ブリコルール:フランス語の「bricoler」(素人仕事をする、日曜大工をする)から。ありあわせの手段・道具でやりくりすること。通常「器用仕事」と訳される。ある目的のためにあつらえられた既存の材料や器具を、別の目的に役立てる手法。C・L=ストロースが『野生の思考』(1962)において、構成要素の配列の変換群(使い回し)で成り立っている「神話的思考」を比喩的に示すのに用いた。「神話的思考の本性は、雑多な要素からなり、かつたくさんあるといってもやはり限度のある材料を用いて自分の考えを表現することである。(中略)したがって神話的思考とは、いわば一種の知的な器用仕事である。」器用人(ブリコルール)も、それに対置される職人(エンジニア)も、所与の材料はむろん無限ではありえない以上厳密な差はないとも言えるが、概念を基に新たな物を作り出す後者とあらかじめ与えられた記号を再利用する前者の態度は異なる。文字通りの素材の二次利用から引用表現まで適用範囲がきわめて広いために便利な用語としてまさしく使い回されている感があるものの、ブリコラージュによって目的と手段がコンテクストから切り離されて別の場所で融合することで、新たな意味作用を生むという指摘はレディメイドを考える上でも示唆に富んでいる。【artscapeより】

〔*4〕クロード・ヴィアラ:1960 年代末にフランスで起こった芸術運動「シュポール/シュルファス(支持体・表面)の中心メンバーとして活躍した現代美術作家です。古典絵画の伝統に挑戦する新しい表現方法として、枠のないキャンバス地や既成のプリント布地にそら豆型のパターンを繰り返し描く作品、またそれらを空間に吊り下げることにより画布の表と裏というヒエラルキーを解消しようとする絵画を今日まで 40 年間、展開し続けています。そら豆の形をした単純な細胞のようなパターンは、その単純さの中に、言い当てようのない、どのようなものにもなりそうな可変性を含んでいます。【GALLERY YAMAKI FINE ARTより】



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